大笑映画の会の第一回例会は、約1年前の平成31年4月21日に開催されました。第一回作品である『真夜中の配達アプリ』の撮影に向け、キャストとクルーを一堂に会し、撮影の”練習”をするのが最大の目的でした。

練習とは言っても、実際、映画作りの現場には本番に向けた練習の積み重ねという概念がほとんど存在しません。演劇のように長期にわたって稽古を繰り返し、舞台に臨むといった文化的な背景がない。これは世界的に見ても同様です。確かに、演劇は一発勝負であり、本番での失敗は許されないものですが、映画も同様、いくら録画とはいえ、そう何回もやり直しできるわけではありません。一度でも撮影に参加したことがある方ならすぐに分かることですが、テイクは一度で済めばそれに越したことはないのです。なぜ、そのための準備をしないのでしょうか。

昔はよく、テレビドラマのNG特集などが放送されていましたが、NGというのは何も演者だけにあるのではありません。カメラや音声、その他のクルーの仕事にもNGはあり、その最もわかりやすいのは撮影です。カメラワークがおかしかったり、演者をフレームから外してしまったり、フォーカスが合っていなかったり、誤って違う露出で録画を始めてしまったり。訓練を重ねることによって失敗は減りますが、熟練者であっても何回もテイクを要する撮影もあります。最近のニュースでは、デビッド・フィンチャー監督の映画で少なくとも200回以上テイクを繰り返したというものがありました。ところで、自主映画に関わっている人のほとんどは熟練者とは程遠い存在です。

映画演技と稽古

なぜ映画に、撮影に向けた練習の文化が見られないのかと考えると、一つには長年映画を支え続けたスターたちの存在があります。単に長期にわたってスケジュールを押さえておくのが難しく、予算が合わないので、一発本番で演技に臨む。もちろん、読み合わせや撮影前のリハーサルを行う現場も数多いですが、基本的に映画の現場で求められてきたのは即効性といえ、演技のオーディションでもコールドリーディングと呼ばれる、台本をその場で渡されてその場で読むといったテストが行われることがあります。役者に最低限の準備時間しか与えずに、どのような結果を返してくれるのか? これは映画演技においてとても重要な要素であることは間違いありません。

その一方で、練習をしない理由は、「その必要がないから」ではないことに着目する必要があります。演者にせよ、演出にせよ、技術クルーにせよ、もっと時間があればいいものが撮れた、という思いは誰しも持っているものです。その日の撮影が終わってフッテージを確認すると絶望的な気分になった監督もいるでしょうし、演技を終えてからもっとできたのに、と悔しい思いをする演者も多いことでしょう。ここでの問は、お互いに時間を出し合って作る自主映画制作という現場において、”練習”または”稽古”を取り入れれば、よりよい映画ができるのではないか、ということです。よりよい映画ができれば、それは関わったキャストやクルー皆の利益になります。演劇では当たり前のように行われている品質保証のための稽古は、映画でも必要です。

『真夜中の配達アプリ』の撮影を終え、まず最初に取り組むべきは、技術部のレベルを相当程度に上げることでした。撮影担当のクルーでさえ露出の概念をしっかりと理解しておらず、仮にfストップがわかっても照明となるとお手上げ状態。シネマトグラフィを録画ボタンを押せばなんでも夢が叶う魔法のように考えている。露出、フォーカス、ホワイトバランスの基本をしっかりと押さえた上で、構図と照明を駆使し、さらにはカメラワーク、そして視覚言語につながっていく。監督のビジョンを視覚に昇華するのが仕事なのに、照明がわからないようではどうしようもありません。基本を抑えることなく、その後の長い旅を始めることも不可能です。

映画制作を基礎から教える映画塾を開始してから、この6月で約1年が過ぎ、会としての活動は2年目に入りました。過去1年の間に、入会に関するお問い合わせも多く頂き、応募者のニーズも様々でした。しかし、これまでの体制では対応しきれず、受け入れが難しいケースも多々あったことも事実です。2年目の方針の一つは、そういった希望に対してより幅広い受け入れ体制を構築することであり、その一つには、演者部の再開があります。

初回例会の参加者は約10名で、その中でも演者希望者は6、7名と、過半数を超えていました。募集の段階でも撮影に向けた練習を明記しており、そういった意味合いにおいては、映画演技における練習の重要性は、ある程度理解されているようでした。急務だった技術クルーの育成に始まり、2年目はより活動の幅を広げることを視野に入れる中で、演者部の運営をどうしていくか。

演者部のあり方

まず、映画の会における演者部は、一般的に見られるような演技講習の場とはおそらく違うものです。映画塾同様、会の提供するサービスについて料金を徴収することはなく、専門の講師を雇い入れるものでもなく、あくまで経験から生じた「こうすればもっとできるのに」を実現しようとするものです。それは各自が失敗から学ぶものであり、作り手との相互理解のもとに取り組まれる課題であり、また演技とはこういうものだというありがちな思い込みを演者に強いるものでもありません。例えば、『真夜中の配達アプリ』、『大阪トルク』といったこれまでに撮影を終えた作品を通して、もっとどうして欲しかったのか、どうすれば良くなったのかを考え、これまでは「もうすでに終わったこと」として処理されてきた様々な失敗から、目を背けることなく学び、改善していくものです。言い換えれば、映画の会の演者部は、これまでもすでにあった作り手と演じる側それぞれのニーズの中で、従来のやり方では満たされなかった何かを、出会うことのなかった需要と供給をマッチングさせていく場です。これまでのやり方とは違いを見出すことによって、そこに新たな価値を創造するわけです。

例えば、人がスキルアップする上で欠かせないのは、インプット、アウトプット、そしてフィードバックの繰り返しです。映画演技に例えるなら、インプットは何らかの演技講習の受講、または自己練、アウトプットは映画本番ですが、従来はそのアウトプットに対するフィードバックが欠けていました。映画の会の演者部は主に、この「フィードバック」を担う場所であり、そのフィードバックを基になすべきインプットを計画し実践してもらい、さらには映画の会が常に並行している映画制作に招き、アウトプットにも臨んでもらいます。

映画の会の演者部|

フィードバック>アウトプット>>インプット

例えば、過去の現場から感じ取った改善すべき点には様々なものがあります。

  • どうしても演技の演技をしてしまう
  • 映画のブロッキングの概念を理解していない
  • 映画の継続性(連続性、またはcontinuity)について全く知らない
  • カメラワークを理解していない
  • カメラの距離によって演技が変化する意味について
  • 舞台演技と区別がつかない
  • そもそも運動不足
  • 関西弁が話せない。普段あまり喋っていないので発声が悪い
  • 目指す役柄にあった体型を維持していない
  • コールドリーディングができない
  • そもそもカメラ慣れしていない
  • 演出の指示を即座に返せない(アウトプットできない)

様々な問題に対し、フィードバックを共有し、その改善方法を提案、または共に模索していく。会が直接提供可能なもの、そうでないものは提案・推薦を通して外部での実践を促す。達成に向けての計画を共に立てる。

演者部参加に際して(令和二年十月再開を目処)

映画塾と同様、積み重ねによって目標を達成しようとする性質から、演者部の受け入れ、参加継続にも一定の条件を設けます。

  1. 二週間に一度の例会に来れる方(東大阪市内の貸スペースを予定)
  2. 将来的に大阪あるいは関西圏を本拠に活躍したい方
  3. チームプレーを理解し、従える方
  4. 会の基本理念に同調する方
  5. 好きなこと以外、面倒なことでも進んで学び吸収する資質・姿勢
  6. 学んだことを独り占めせず、他者と共有できる資質・姿勢
  7. 自ら進んで行動する資質・姿勢。ただ受身で学ぶだけの姿勢は否

等です。

さらに具体的な運営内容、参加継続資格、受け入れ人数等は、今夏の間により詰めていく予定です。