Youtubeで一般公開予定
大笑映画の会の第一回作品『真夜中の配達アプリ』が、編集期間1年半の紆余曲折?を経てようやく完成しました。構想と脚本を含めた撮影準備に約3ヶ月(2019年2月〜4月)、撮影に6日(2019年5、6月)、編集に1年半(2019年7月〜2020年12月)。最終尺は52分の中短編となっています。主演は大阪が誇る世界的スタア・佐波太郎と、演劇界でも活躍が期待される新生・酒井そらのお二方。制作参加総数は演者・裏方を含めて約30名でした。
企画当初から、本作は会の周知を目的として始められ、短期間で完成させる短編となるはずでしたが、いつの間にやらずるずると中編に。編集も1ヶ月くらいでパッと終わらせるはずでしたが結局1年半に爆延しました。それもこれも作り手のこだわり(悪あがき)があってこそ。インスタント企画はいつしか人生の一部となり、途中で辞めることも適当に終わらせることも不可能になっていったのでした。
本作の公開は企画通り、Youtubeでの一般無料配信を予定しています。期日は2021年4月~6月開始で調整中です。
いぼ痔ですねー。起きていいですよ。
松村穂高
混迷を極めた第一回ラフカット
ラフカットというのは生の素材からショットを並べてカットをほぼ固定した状態の映画のことです。視覚効果や音響、音楽などはまったく入っていない状態のため、最終的な完成品と全く”感じ”が異なるのが普通です。普通ですが、一番大事な工程です。これで物語の基礎が決まるからです。逆にいえばこれがダメならどれだけ後の工程でごまかしても高が知れています。そしてこの映画のラフカットは混迷を極めていました。以下は当映画のポスプロにおける各ワークフローの所要日数です(だいたい)。
当映画は編集の要所でテストモニターにご協力頂きました。モニターを募集したのはこのラフカットと、ファイナルカットの二回です。ラフカットでご協力頂いたのは約10名、ファイナルカットは数名でした。まだ全然完成していない状態で10人もの人々に見てもらう価値はあるのか、という感じですが、映画のカット固定は編集の中でもっとも大事な工程なので、答えはイエスです。フィードバックをボロカスに言ってもらうのが目的です。テストレビューを経て、本作のカットは大幅に変更され、ところどころでシーンをやセクションを完全に入れ替えました。上の表で見ると、ラフカットは絵と音を合わせて50日程度ですが、その後のプリファインカットまで100日以上かかっているので、混迷の度合いがわかります。
鬼の色調整(カラコレ、グレーディング)
カラーコレクションは撮影時の色の不出来を矯正する作業、グレーディングは作品の世界観を色で表現するための調整です。前者ではホワイトバランスや適正露出というような指標がありますが、後者の指標は担当の想像力です。「真夜中の配達アプリ」のカラコレはよくある撮影中の不備によってある程度時間がかかりました。ほとんどが夜の撮影で、色温度5600で照明をセットしているため、単色の状況では問題ないシーンが多かったですが、外に出て街灯とミックスしたりすると問題が生じます。そもそもスケジュールをきつく組み過ぎて、1日の平均撮影は30セットアップを超えていました。ホワイトバランスを正しくとるのを忘れたり、照明の色温度を環境光と違うものにしてしまったり、というのが頻繁にありました。色がミックスになると正しくカラコレするのはほとんど不可能です。格闘シーンにおいてはカメラを二台使っており(キャノンとソニー)、それぞれの設定を合わせるところからすでに上手くいっていませんでした。グレーディングは主によく見る映画監督の作品を参考にしました。キーにあたる部分の明るさを要所で40超に合わせていましたが、最終的にipadでディスプレーの明るさを最低にして視聴したときに暗部の階調が明らかに破綻してしまうことから、ファイナルカットではレベルを明るめに調整しました。
実写のVFXと粗隠し
VFXと言ってもハリウッド映画で聞かれるようなかのVFXではありません。プリプロ段階では設計も予定もされていない、撮影で生じた欠点を隠すためのVFXです。これは幾度もの試行錯誤を経て、いくつかのショットでは成功、多くのショットでは妥協で事を終えています。施した効果については以下のようなものがあります(覚えているもののみ列挙)。
- スクリーン・リプレースメント(画中のモニタ画面に違う映像を埋め込むもの。カメラの動きあり、前を人が横切るなどあるため、複合的)
- 格闘シーンのスピード調整(ランピング)
- ショットのコマを増やす(一部のショットで数秒静止画を使用、手ぶれ等を加えて動画のように見せようと少なくとも努力している)
- ディストーション補正(レンズの歪曲や、ローともハイアングルともいえないショットをストレートに矯正する作業)
- レンズダストの処理(他のショットでは開口しているのにここだけ絞っている理由が不明。コンテントフィルでもマニュアルでもどうにもならない箇所多数)
- カメラのランダムな揺れ補正(揺れるべきではないところで揺れているところはトラッキング、またはマニュアルで補正)
- スタビライズ(ワープスタビライザー、使ってない)
- フリッカー消し(よくあるパチパチではなくで波状のフリッカー。マニュアルでわかりにくくする方法がまああります。10年前に編み出された手法)
- ノイズ消し(もっとも容易、ニートビデオで気分はニート)
その他、やりたくてもできなかったもの
- 夜の窓を昼間にする(前を人が横切る、その選択がうまくできなかったため不可能に。横切らなければカメラが動いていても容易だった)
- 単車の合成(太郎の家の前に単車を停めようとしたが、難しかった)
- レンズダスト(動きが激しい箇所は何をどうしても無理だった。誰か方法を教えて欲しい)
- 佐波さんの顔を全編ジョーカーにする(物語が変わってしまうのでアウト)
効果音 時間をかければ なんとかなる(かも)
効果音で一番面倒なのはとにかく数が多いこと。アドバイザーのお力もお借りしてリストアップした挿入箇所は200以上。最終的には300弱です。。数が面倒ということ以外は、基本的に足していく作業なので音に関する深い知識がなくともある程度なんとかなります。使用した音源は自作とアドビのロヤルティフリー音源(カウボーイブーツの足音とか入ってるあれ)です。トラックの数はダイアローグが二つ、環境・アクションの生音が3トラックでしたが、効果音によって自作録音の効果音が3トラック、外部ソースの効果音Aが4トラック、外部効果音Bが5トラックでした。外部効Aは主に足音、外部効Bは格闘シーンを中心としたヒット音で使われています。ヒット音は一つのソースに頼ることをせず、2~5つの音を足してみています。
アドビの音源がどうしてもアメリカンなので最初は抵抗がありますが、ある程度ごまかしが聞くことがやっているうちにわかってきます。一通り足したあとは引いていく作業。いらないところは消していきます。それぞれの音の種類に応じてサブミックスに個別に振り分けておきます。
音楽の研究から事はスタート
音楽も効果音同様、設計図を書くところから始めています。音楽を大きく2種類に分け、効果音楽と音楽を別々に作業していきます。前者は作曲の知識がなくてもある程度可能な領域、音楽は作曲のスキルがなくては無理です。結果として、効果音楽はアドビのローヤルティフリー音源を加工、ミックスして自作、音楽は作曲家とオンライン上のローヤルティフリーサイトで手配しました。音楽サイトは4、5年前までは明らかに不可能だった音楽の使い方がある程度可能になってきており、そのため本作は合計で30弱の音楽トラックを使用しています。効果音楽はアドビ音源の主にProduction Sound, Imaging Sound, Droneを中心に加工・ミックスしました。
音楽もとりあえずは足してみて、あとは引いていく方法を採用。ファイナルカットのレビューで音楽に注文が入ったところを消したり変えたりして対応しました。音楽のこだわりは、もともと地元の音楽家の音楽を使いたかったのですが、設計のように多数の音楽を個別に作曲してもらうというのは時間的に不可能だったので、日本全国に範囲を広げてリサーチしました。最終的にはアーティスト1グループになってしまいましたが、イントロの音楽に採用しています。
このあとの展開
21年1月中に関係者のみでの試写会を行ったあと、同年4〜6月中にYoutube等での無料配信を開始する予定です。
乞うご期待!
おまけ(格闘シーンのリハ)