本番が一番成長する

<忘備録>制作レベルを上げるための次のステップ

動き ー ブロッキングとカメラワーク

今回の作品では導入部分で試験的なカメラワークを多数試みた。一方の本アクション部分ではいくつかのリフレーミングを使ってはいるものの、基本的に大きな動きやカメラワークは採用していない。その理由は、

  • ラインスクリプト、俯瞰図、ショットリストに十二分な時間を割けなかった。スケジュールの制限上、撮影三週間ほど前からラインスクリプトを書き始めており、全部で17あるシーンのうちある程度の動きを表現できたのは最初のシーンくらいだった。その間にも脚本の変更などがあり、そのつじつま合わせに他の作業に時間を使い過ぎたことは大きかった。

導入部にある程度の動きを取り入れることはできたが、本アクション部分では締め切りを意識して簡易なショットリバースショット(SRS)を多用している。ただし、何もSRSが悪いということではない。ストーリーを効果的に伝えるために考案された技法の一つであり、変わり種を採用して分かりづらい表現をするよりはSRSの方が確実で正解である。

とは言いつつも、必要なアクションを伝えるための被写体サイズの選択(シンプルイズザベスト)、それでも補えない部分は別ショット、というやり方を繰り返して行くと、当然ながら撮影しなければならないショットは増えて行く。ブロッキングやカメラワークを工夫することはショットの数を減らすことにも繋がる。動きを工夫すれば、絵の面白さと撮影効率の二つを両方取りできるということでもある。そのために高価なサポートシステムを準備する必要はなく、三脚でもできることはまだまだある。

今後も引き続き、演者の空間移動を含むブロッキング、それに応じた三脚カメラワーク(pan/tilt)で十分な動きを表現することが大前提。特段ファンシーなカメラワークを多用することなく、役者の動き、ブロッキングを工夫して面白い絵作りを目指す。

《原則》三脚と簡易なリフレーミングのみで最も効果的なブロッキングを実現する(練習をする)

その一方で、その次のステップを見越してある程度思い切ったカメラワークを一部採用していくことも必要。特に興味のあるサポートシステム(カメラワーク)としては、

  1. ジンバル
  2. スタビライザー(ベスト&アーム)
  3. レールドリー

の三つ。いずれもある程度の投資が必要なものばかりなので、三脚である程度の動きを表現できるようになってからの話になる。

ジンバルはDSLR用の小さいのではなく大きなカメラで使えるものが必要。今では10万程度でも6.5キロ支えられる物がある様子だが(Zhiyun Crane 3s)、果たして。その他のメーカーでは同様ののレベルで100万とかするのが普通。大きなカメラを支えられるジンバルがあれば、シネマカメラにシネマレンズをつけて、ワイヤレスフォーカスもつけられそうな感じ。が、ここまで重くなると果たしてオペレーター自身が安定してシステムを支え続けられるのかという疑問もある。

ベスト&アームのスタビライザーは苦い思い出があるサポートシステムの一つ。このシステムで撮影された動きのある絵は素晴らしいものの、見るとやるとでは大違い。扱いが非常に難しい。撮影に適したバランスの取り方はまだ序の口で、動きを安定させるためにはある程度重いシステムを採用する必要があり、これのセットアップにも研究が必要になる。もちろん最も難しいのはオペレーション。数あるサポートシステムの中で一番難しいんじゃないかと思う。テクノロジーで補完できる部分が少なく、オペレーターの技量と体力にかなり依存するため。

レールドリーは使う場所を選ぶ。屋内など地面がなめらかな場所では車椅子や荷車で代用できるカメラワークもあるかもしれないが、基本的にレールドリーといえば台の上にカメラマンが乗りながらカメラを動かすスタイルで本領を発揮する。機材さえ揃えればオペレーションという意味では上記の二種よりもある程度簡単に綺麗なカメラワークを実現できる。

変り種としては、ベストアームの先っぽにジンバルをつけるやつ。カメラワークの種類としてはジンバルの動きをスムーズにする感じ。これによって本来できたジンバルの動きでできなくなるものがあるほか、先っぽにジンバルをつけた時点でベスト&アームスタビライザーに求められるような機敏なリフレーミングの類はきなくなる。どれも一長一短ある。重いギンバルシステムを安定して支えるための一つのアイデアとしては有効。

マニュアルフォーカス|動きを増やせば、フォーカスが難しくなる

現在、撮影に使っているレンズは一眼レンズ、しかも大体はキャノンのズームレンズである。10年ほど前、まだデジタルシネマカメラが出始めた当時、シネマレンズの代わりにZeissのニコン用レンズ(単焦点)にキャノンのレンズアダプタを取り付け7Dで使っていたことがあった。なぜニコン用だったのかといえばアイリスをレンズ側で調整できたから。がその後、他社のカメラでも電子接点で調整できるレンズアダプタが発売され始めたことなどがあり、レンズ側でアイリスをコントロールする必要は薄れていった。結果5、6年ほど前に売却処分。ズームレンズでも問題ないと思っていたのだったが…

絵に動きを取り入れようとした結果、難しくなるのはフォーカスの調整。現在使用している一眼ズーム(オートフォーカス)のフォーカスリングは抵抗がかなり弱く、スカスカのものばかりである。例えば車でアクセルやブレーキに抵抗がないと踏み込みすぎて急加速や急ブレーキになってしまう感覚。また少し回しただけではフォーカスが動かず、遊びがあり、フォーカスリングの位置と実際のフォーカス平面が一定ではないため、その都度マニュアルで目印をつけなければならないのも不便。少し回しただけでフォーカス平面が大きく変わってしまうことも問題。

カメラが動く場合はACがフォーカスリングを直で回すのは難しく、カメラから離れた場所でフォーカスをコントロールする必要が生じることもある。この場合に必要なのはワイヤレスフォーカスのシステム。安いのは取り入れて見たものの、フォーカスシステムとしてはまだなんかが足りていないような気がする、いや足りてない。WFT-E8Bを使うとタッチパネルでオードフォーカスのターゲットを指定できることがわかったが、ライブビュでも正味1秒ほどのタイムラグが生じる(実験済)。これはこれで使えるので今後さらに実験が必要。

以上のフォーカスの問題を根本的に解決するために必要なのは以下の二つ

  1. シネレンズの導入
  2. ワイヤレスフォーカスシステムの研究

シネレンズは低予算帯では今の所一択か、Rokinonの単焦点群。何も1ミリ単位で焦点距離を動かす必要はなく、順序としてはまず被写体のサイズを決め、焦点距離を決め、そしてカメラの位置を決める。ズームレンズがいいのは例えば最初にカメラの位置を決める場合だが、大体のケースではそのやり方は理屈に適わない。

ワイヤレスフォーカスは、AC用のモニターを準備するのはある程度簡単、無線で絵を飛ばす機器も最近は安価でいろいろなものが出て要るらしい。が、そもそもシネレンズがないとあまり意味がなさそう。使うのはまだ先になると思われる。

1日に何ショット撮れるのか?

現行の映画塾の撮影スタイルでいける上限はかなり効率的にやって1日30ショットほど。クルー人数は最低4名(演出兼撮影照明、助監督兼撮影助手、録音、美術)。

映画塾の撮影スタイル
  • 撮影照明 ー 三脚中心、照明は1〜3等でサブジェクトのキー側中心に照らすだけ。1、2割は三脚以外のサポートシステムを使う。
  • プロダクションデザイン ー セットは組まない。シーンごとにいくつか小道具があるのみ。衣装やメイクアップはかなり簡易的。
  • 音声 ー 時たまショット外で必要なアクション音を別に録音。

さらに効率化すれば多分もっと撮れるが、あくまでその必要がある時にだけ早撮りすれば良いだけで、早くやればやるほど基本的には絵のクオリティも落ちていく。三脚中心でも動きを増やすのであれば1日あたり20ショット程度にまで減らし、一つ一つのセットアップの完成度をあげることが映画塾面々のスキルを上げることに繋がるだろう。

理想と必要最低のクルー構成

今回は監督兼撮影照明、撮影助手兼助監督、録音、ちょい美術のみなし4名。撮影スタイルを選べば最低4名、理想6、7名いればある程度のものが撮れる。

監督
撮影照明
撮影助手
録音
美術
助監督
制作(もしくは二人目の撮影助手)

早々に次の作品を撮らないと全部忘れるだろう。

今は映画よりも大谷翔平の方が面白い件

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