2021年11月30日付の記事「陰翳礼賛から撮影照明、から時間。」について、撮影を大方終えたので、感想を交えてその補足を記録しておこうと思う。
今回の創作の撮影照明における決め事は以下の三つだった。それぞれの感想が続く。
1. キーライトはサブジェクトの後方から来る。後方であれば真横の少し後ろ側でもま後ろでもかまわない。
サブジェクトの後ろからくる光というのは、ふつうバックライトである。三点照明においては頭の縁を後ろから照らして背景と分けるためのスポット照明をバックライトと呼んでいたが、そのバックとメインのキーライトの境目が曖昧になっていく。どこに光が当たってどこが影なのかと言う認識は多分曖昧である。ある部分に比べてある部分が暗ければ影、そうでなければ光があたっている、対比として感じるのは確かにそうだが、かと言ってふつうに明るい被写体に対して空が白飛びしていたりすれば被写体を影だとは感じないかもしれない。そのためミドルグレーでIRE40くらい(カメラや色設定により変化、今回使ったのはa7SII+slog2)がいわゆる「ふつうに明るい」と言う基準がある。被写体に当たっている一番明るい光がキーライトなのかといえばそうでもなく、一目見て「良い」と私が感じる絵作りの多くは最近の流行りなのか、カメラ側に被写体の面積の多くが後方より当たっているキーっぽい光よりも暗めのフィルであるにも関わらず、IREでいうと普通に30〜50とかあって結局適正露出というパターンである。見た目にはどう考えても陰側な感じが否めないのだが、綺麗に見える。
2. 陰翳礼讃
これは一番厄介だった。光の種類の分類では多分「g」や「e」に当たるもの。いくつかのショットで文ほぼママのショットを撮影したりした(漆の反射に鈍く映る銀の輝き、分類「e」)。いくつかのショットはかなり暗くするつもりで撮影(分類「g」)、全体的にIRE20前後以下に落としており、これだけ見たら暗すぎてお話にならない。ショットの連続の中で違和感なく流すことに成功しなかった場合は、逆に光源ショット(分類「d」)を交互に挟んでコントラストを作り、編集で問題を解決する方向でトライするつもりである。暗部の階調をより細かに表現できればある程度多用してもいいが。
3. 被写体の光の状態は以下の七種類。尚、一部をのぞいて光源はほぼ点照明一点である。
- (a)被写体面に少しでも光が当たっている
- (b)被写体面に全く光が当たっていない(シルエット)
- (i) 真後ろから光が当たっている場合、だがこの場合はカメラ側の被写体面も少なからず明るい箇所があるのが普通である。
- (ii)被写体に光が全く当たっておらず(少なくとも露出レベルで)、背景には光が当たっていることから明暗差が出ること
- (c) 被写体の影である
- (d) 光源そのものである(太陽、月、火、電灯など)
- (e)被写体の反射である(反射面に映る被写体が明るく、背景が暗い)
- (f)被写体の影の反射である(反射面に映る被写体が暗く、背景が明るい)
- (g)光源が極めて大きく、陰陽の対比が曖昧な絵で、絵全体の明るさが上限IRE20~30以下であること。ただし、日本画や漆器の金模様の輝きは40辺りを示しても良い。
これについては、撮影しているうち、以上の7種類以外にもあるなと感じていた。最も顕著なのは光そのものである。光は何かに当たらないと見えないので、例えば雲間から差す光の筋の場合、サブジェクトは「空気中のチリかなんか」、光は後方から当たっている、と見なせばそうとも言えるが、このサブジェクトを空気中の粒子だと断言するのは、ちょっと辛いものがある。物理的には間違いないのだろうが、一番の問題はそうと思い込んでしまうとサブジェクトを発見しづらくなることである。空気中のチリを探すよりも光の筋を探す方が早いんじゃないのか、と言うお話。同様に光そのものが被写体とみなせる事象は数多いが、今回の撮影ではあくまで光は光として、サブジェクトとは別に存在すると言う前提のもとで被写体探しにのぞんだ。そら、光をサブジェクトと見なすと見えるもん全部光だと言うことになってしまう。光が形や模様を作っている場合でも、あくまでそれはvisual textureと言うカテゴリに落として、光が被写体であるとは頑固に認めてこなかった。だが、やっている間中は違和感の連続である。だから細かい話はおいておいて、光も被写体になり得ると考える方が得策だと思う。
- (h) 光そのものである(光源は含まない)。光が作り出す何らかの形や模様を被写体であると見なす、特にその光が当たっているモノが被写体とは見なしづらい場合。
これはあくまで感覚としての話なので、仮に光が形が模様を作っていたとしても、光が乗っているモノがサブジェクトなのかそうでないのかについてはその都度必要なら分けて考えれば良い。例えば海面に反射する夕日のサブジェクトは太陽かもしれないし、光そのものかもしれない。
これ以外にもあるとは思うが、他の分類とかぶるか被らないかという微妙なものもあるので、考えがまとまればまた書こうと思う。
尚、光が被写体の前から当たっていても、「frame in frame=なんかの影で擬似的にフレームを作っていること」を使っていれば、便宜的にそれをvisual textureとみなし、今回のプロジェクトでは使用可とした。